突発性発疹を引き起こす犯人は、ヒトヘルペスウイルス六型(HHVー6)および七型(HHVー7)という非常に身近なウイルスです。これらは「ヘルペス」という名前が付いていますが、口唇ヘルペスや水痘(水ぼうそう)とは異なるグループに属します。興味深いのは、このウイルスの「住処」です。実は、健康な大人の唾液の中に常駐していることが多く、お父さんやお母さん、周りの大人との日常的な触れ合いを通じて、赤ちゃんの口から体内へと侵入します。生まれてすぐの赤ちゃんは、お母さんからもらった免疫(移行抗体)に守られていますが、生後半年を過ぎる頃からその力が弱まり、初めてこのウイルスと接触した際に発症します。ウイルスが体内に入ると、まずリンパ節などで増殖し、その後血液に乗って全身へと広がります。これが、あのような急激な高熱を引き起こす原因です。高熱が出ている間、体の中では白血球や免疫細胞がウイルスと激しい戦いを繰り広げています。そして三、四日が経過し、免疫システムが優勢になると熱が下がりますが、そのタイミングでウイルスを攻撃するために作られた抗体や免疫物質が、皮膚の血管を刺激したり、微細な炎症を起こしたりすることで「発疹」が現れるのです。つまり、発疹が出たということは、体がウイルスに勝利したという証、いわば勝利宣言のようなものなのです。HHVー6に一度感染すると、通常は一生続く強力な免疫が得られますが、その後、稀にHHVー7による二度目の突発性発疹を経験することがあります。一度目よりも症状が軽かったり、年齢が少し上がってから発症したりすることが多いのが特徴です。また、このウイルスは一度感染すると、体内の特定の細胞の中に「潜伏」する性質を持っています。しかし、健康な状態であれば悪さをすることはありません。このように、突発性発疹はヒトとウイルスが共生していくための一つの儀式のような側面も持っています。現代医学において、このウイルスに対する特効薬は必要ありません。なぜなら、人間の体が本来持っている免疫機能だけで十分に克服できるからです。高熱や発疹という派手な症状は、赤ちゃんの体が初めて出会う異物に対して、いかに精巧で力強い防衛反応を示しているかという現れでもあります。そう考えると、真っ赤な発疹も、赤ちゃんの成長を祝う勲章のように見えてくるかもしれません。ミクロの世界で起きているこの壮大な戦いを理解することで、病気に対する不安が少しでも知的好奇心や安心感に変われば幸いです。
ウイルスの正体から見る突発性発疹の仕組み