わが家にとって、あの夏の出来事は一生忘れることのできない恐怖の記憶となりました。始まりは、当時二歳だった息子の足の裏に見つけた、ほんの数個の小さな赤い点でした。保育園で手足口病が流行っていると聞いていたので、ついにうちもか、と軽い気持ちで考えていたのです。その日の夜に三十八度五分の熱が出ましたが、本人は至って元気で、食欲もありました。翌朝には熱も下がり、口の中の痛みを少し訴える程度だったので、数日休めば治るだろうと高を括っていました。しかし、その日の午後から事態は一変しました。息子が突然、激しい嘔吐を始めたのです。最初は食べたものが悪かったのかと思いましたが、その後は水さえ飲んでもすぐに吐き戻すようになりました。何より怖かったのは、息子の「目つき」が変わったことでした。どこか遠くを見ているような、焦点の合わない虚ろな表情になり、普段なら大好きなアニメを見せても全く反応しません。名前を呼んでも、力なく首を振るだけで、そのうち手足がピクピクと痙攣するように震え始めました。私は直感的に、これは普通の手足口病ではないと感じ、震える手で夜間救急へ電話をかけました。病院に到着したとき、息子はすでに意識が朦朧としていました。すぐに様々な検査が行われ、医師から告げられた診断名は「ウイルス性脳髄膜炎」でした。手足口病のウイルスが脳にまで達しているというのです。そのまま集中治療室への入院が決まり、小さな体に何本もの管が繋がれた息子の姿を見て、私は自分の甘さを呪いました。もしあの時、嘔吐をただの胃腸風邪だと思って朝まで様子を見ていたら、息子は今ここにいなかったかもしれません。入院生活は二週間に及びました。高熱が続き、意識が戻るまで数日間かかりましたが、幸いなことに迅速な処置のおかげで、後遺症なく退院することができました。この経験を通して私が痛感したのは、手足口病は決して「軽い病気」ではないということです。ほとんどの子どもは軽く済みますが、誰にでも重症化の牙を剥く可能性があります。特にお母さんたちに伝えたいのは、自分の直感を信じてほしいということです。いつもと何かが違う、元気がなさすぎる、嘔吐が止まらない。そんな小さな違和感こそが、子どもが発しているSOSなのです。ネットの情報を鵜呑みにして「よくあること」と片付けず、迷わず医師に相談してください。あの時の息子の青白い顔と冷たい手足を思い出すたびに、私は今でも胸が締め付けられます。手足口病を甘く見ないこと、それがわが家がこの苦しい経験から学んだ、最も重い教訓です。
手足口病で入院を経験した母親の切実な手記と教訓