手足口病は一般的に夏風邪の一種として広く知られており、乳幼児を中心に流行するウイルス性疾患です。多くの場合、口の中の粘膜や手のひら、足の裏などに現れる小さな発疹と、数日間の発熱を経て、特別な治療を行わずとも自然に回復していく経過をたどります。しかし、稀にこの病気が深刻な合併症を引き起こし、重症化することがあるという事実は、決して見過ごしてはならない重要なポイントです。重症化の背後に潜んでいるのは、ウイルスが中枢神経系や心臓などの重要な臓器に侵入し、炎症を引き起こす現象です。具体的には、髄膜炎や脳炎、さらには心筋炎といった命に関わる疾患が合併症として現れることがあります。手足口病の原因となるウイルスには複数の種類が存在しますが、特にコクサッキーウイルスA16型やエンテロウイルス71型が代表的です。このうち、エンテロウイルス71型による感染は、他の型に比べて中枢神経系の合併症を伴いやすく、注意深く観察する必要があります。重症化の前兆として最も警戒すべきは、熱が下がらないことや、嘔吐を繰り返すといった症状です。通常の手足口病であれば、発熱は長くても三日程度で収まり、全身状態もそれほど悪化しません。しかし、水分を摂ってもすぐに吐き出してしまう、あるいは吐き気が止まらないといった場合は、脳圧の上昇や髄膜の炎症が疑われます。また、ぐったりとして元気がなく、視線が合わない、呼びかけに対する反応が鈍いといった意識障害の兆候も、脳炎の可能性を示唆する極めて危険なサインです。身体的な動きにも注目が必要です。手足が震える、歩き方がふらつく、あるいは急に力が抜けるといった運動失調や麻痺の症状が現れた場合は、一刻を争う事態であると認識しなければなりません。さらに、呼吸が速い、顔色が悪い、脈拍が異常に速いといった循環器系の異常は、急性心筋炎や肺水腫の前触れである可能性があります。これらの重症化の兆候は、発疹が現れてから数日以内に急速に進行することが多いため、親や周囲の大人は「たかが手足口病」と楽観視せず、子どもの変化を細かくチェックし続ける姿勢が求められます。夜間や休日であっても、これらの症状が見られた際には躊躇することなく救急医療機関を受診する決断が必要です。早期発見と迅速な集中治療こそが、重症化による後遺症を防ぎ、尊い命を守るための唯一の道となります。手足口病の本当の怖さは、そのありふれたイメージの陰に、予測困難な急変が隠されている点にあるのです。
手足口病が重症化する際の初期症状と警戒すべき兆候