「大事なプレゼンの前になると、脇のニオイが気になる」「緊張すると、汗と共に独特なニオイが強くなる気がする」。このように、精神的なストレスや緊張が、ワキガのニオイを悪化させる一因となることは、多くの人が経験的に感じているのではないでしょうか。この感覚は、単なる気のせいではありません。ストレスとワキガには、医学的にも密接な関係があるのです。私たちの体は、強いストレスや緊張、不安、驚きといった精神的な刺激を受けると、交感神経が優位になります。すると、体温調節とは関係なく、手のひらや足の裏、そして脇の下から、いわゆる「冷や汗」や「精神性発汗」と呼ばれる汗が分泌されます。この精神性発汗は、体温調節のための温熱性発汗と異なり、ワキガの原因となる「アポクリン汗腺」と、通常の汗を出す「エクリン汗腺」の両方から、同時に汗が分泌されるのが特徴です。つまり、緊張する場面では、アポクリン汗腺の活動が活発になり、ニオイの元となる成分を含んだ汗の分泌量が増加してしまうのです。さらに、同時に分泌されるエクリン汗の水分が、アポクリン汗の成分を皮膚表面に広げ、皮膚常在菌の活動を活発にする手助けをしてしまいます。これにより、通常よりも多くのニオイ物質が産生され、結果としてワキガのニオイが強くなってしまう、というメカニズムです。また、ストレスは、ホルモンバランスの乱れを引き起こすこともあります。ホルモンバランスが乱れると、アポクリン汗腺の働きがさらに活発になる可能性も指摘されています。このように、ストレスは、直接的にも間接的にもワキガのニオイを増強させる、非常に厄介な存在なのです。この悪循環を断ち切るためには、まず自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。趣味に没頭する時間を作ったり、適度な運動をしたり、ヨガや瞑想でリラックスする習慣をつけたりすることも有効です。また、ニオイへの過度な不安自体がストレスとなり、さらに汗をかいてしまうという悪循環に陥っている場合は、皮膚科や形成外科などの専門医に相談し、適切な治療を受けることで、心の負担を軽減することも重要な解決策となります。