私の朝は、憂鬱な一歩から始まっていました。ベッドから足を下ろし、床に最初の一歩を踏み出した瞬間、右のかかとに突き刺すような激痛が走るのです。まるで、ガラスの破片を踏んだかのようでした。その痛みは、四十代半ばを迎え、健康のためにと軽いジョギングを始めた数ヶ月後から、じわじわと私を蝕んでいきました。最初は、運動後の筋肉痛だろうと軽く考えていました。しかし、痛みは日を追うごとに強くなり、朝だけでなく、会議で長時間座った後に立ち上がる時にも、私を苦しめるようになりました。大好きだったジョギングも、痛みで楽しめなくなり、すっかり足が遠のいてしまいました。市販の湿布を貼っても、効果は一時的。このままでは歩けなくなるのではないか、という不安に駆られ、私はついに整形外科の門を叩きました。診察の結果、下された診断は「足底腱膜炎」。テレビや雑誌で聞いたことのある病名でしたが、まさか自分がなるとは思っていませんでした。医師は、加齢による柔軟性の低下と、急な運動が原因だろうと説明してくれました。そして、その日から、私の本格的な治療とリハビリが始まりました。処方されたのは、痛み止めの飲み薬と湿布。そして、理学療法士の指導のもと、徹底したストレッチを行うことでした。教わったのは、タオルを使って足裏を伸ばすストレッチと、壁を使ってアキレス腱を伸ばすストレッチ。毎日、朝晩、お風呂上がりに、痛くても歯を食いしばって続けました。また、普段履く革靴の中に、かかとを保護するインソールを入れるようにもしました。最初の二週間は、正直、あまり変化を感じませんでした。しかし、一ヶ月が経つ頃、ふと気づいたのです。朝の一歩目の、あの激痛が、少し和らいでいることに。それは、暗いトンネルの中に差し込んだ、一筋の光のようでした。それからは、ストレッチにも一層熱が入りました。三ヶ月後には、日常生活での痛みはほとんどなくなり、半年後には、恐る恐るですが、ジョギングを再開できるまでに回復しました。あの痛みは、私の体に「無理をするな」「自分の体をケアしろ」と教えてくれた、大切なサインだったのだと、今では思っています。
私がしつこいかかとの痛みを克服した話