小学二年生のA君は、高熱と喉の痛みで小児科を受診し、溶連菌感染症と診断されました。処方された抗生物質を十日間しっかりと飲み切り、すっかり元気になって学校にも復帰しました。ところが、最初の発症から二週間近く経ったある日、A君の腕や足に、赤いポツポツとした発疹が現れました。A君のお母さんは、「溶連菌が治りきっていなかったのでは」と心配になり、再び小児科を訪れました。医師はA君の体を診察しましたが、熱もなく、喉の赤みもありません。A君自身も、痒がる様子もなく、至って元気です。医師は、処方した薬による薬疹の可能性も考えましたが、発疹の出方やタイミングから、別の可能性を考えました。「もしかしたら、別のウイルスにも感染していたのかもしれませんね」。実は、子供の体は、短い期間に複数のウイルスや細菌に感染することが決して珍しくありません。特に、保育園や学校といった集団生活の場では、様々な感染症が常に流行しています。A君の場合も、溶連菌と戦って免疫力が少し落ちていたところに、たまたま別の、発疹を引き起こすウイルス(例えば、りんご病の原因となるパルボウイルスなど)にも感染し、その潜伏期間を経て、少し遅れて症状が出てきた可能性が考えられたのです。溶連菌の治療が終わったタイミングと、別のウイルスの発症のタイミングが偶然重なったことで、お母さんは「溶連菌の再発」と結びつけてしまったのです。このようなケースは、特に様々な感染症が流行する季節にはよく見られます。治療法は、原因となっているウイルスによって異なりますが、多くは自然に治癒するもので、特別な治療は必要ありません。このA君の事例が示すように、病気の症状は、必ずしも一つの原因だけで説明できるとは限りません。特に子供の場合、複数の要因が絡み合っていることも想定しておく必要があります。治療後に現れた新たな症状に戸惑った時は、思い込みで判断せず、これまでの経過を正確に医師に伝え、総合的に判断してもらうことが大切です。