首のしこりに気づいた時、痛みを伴う場合は感染によるリンパ節炎などが多く、比較的心配のないケースがほとんどです。しかし、逆に「痛みを全く伴わないしこり」が、数週間から数ヶ月かけてゆっくりと大きくなっていく場合、それはより慎重な対応が求められるサインかもしれません。痛くないからと放置してしまうと、重要な病気の見逃しに繋がる可能性があります。痛みのないしこりの原因として、まず考えられるのが「良性腫瘍」です。皮膚のすぐ下にできる、柔らかくドーム状に盛り上がる「粉瘤(ふんりゅう)」(アテロームとも呼ばれる)や、脂肪細胞の塊である「脂肪腫(しぼうしゅ)」は、その代表例です。これらは、触るとコロコロと動き、通常は痛みはありません。基本的には放置しても問題ありませんが、大きくなって見た目が気になる場合や、感染を起こして痛みを伴うようになった場合は、「皮膚科」や「形成外科」で摘出手術を行います。また、生まれつきの袋状の構造物が残ってしまい、そこに液体が溜まることでできる「嚢胞(のうほう)」も、痛みのないしこりの原因となります。代表的なものに、首の真ん中にできる「正中頸嚢胞」や、首の側面にできる「側頸嚢胞」があります。これも、感染を起こすと腫れて痛むことがあり、その場合は「耳鼻咽喉科」での手術が必要となります。そして、最も注意しなければならないのが、「悪性腫瘍(がん)」の可能性です。一つは、甲状腺がんや唾液腺がんなど、首にある臓器そのものから発生する「原発性のがん」。もう一つは、口の中や喉、あるいは肺や胃など、他の場所にあるがんが、首のリンパ節に転移してきた「転移性リンパ節」です。がんによるしこりは、石のように硬く、周囲の組織と癒着して動きにくいのが特徴です。また、複数のしこりができたり、声がれや飲み込みにくさといった他の症状を伴ったりすることもあります。もちろん、痛みのないしこりの全てが危険なわけではありません。しかし、「痛くないから大丈夫」という自己判断は絶対に禁物です。大きさや硬さに少しでも変化を感じたら、必ず専門医の診察を受けてください。