胸の痛みと一言で言っても、その原因は様々です。食道の炎症から、肋骨の骨折、あるいはストレスによるものまで、多岐にわたります。しかし、その中で絶対に見逃してはならないのが、心臓が発するSOSサイン、すなわち「虚血性心疾患(狭心症や心筋梗失)」による痛みです。これらは一刻を争う病気であり、その特徴的なサインを知っておくことは、自分や大切な人の命を守る上で非常に重要です。では、危険な胸の痛みにはどのような特徴があるのでしょうか。まず、痛みの「性質」に注目してください。心臓が原因の痛みは、「チクチク」「ズキズキ」といった鋭い痛みであることは比較的少なく、むしろ「胸が締め付けられる」「圧迫される」「重石を乗せられたようだ」と表現される、鈍く広範囲な圧迫感が特徴です。まるで胸を万力で締め上げられるような感覚、と訴える方もいます。次に、痛みの「場所」です。痛みの中心は、胸の真ん中(胸骨の裏あたり)から、やや左側にかけて感じることが多いです。そして、非常に特徴的なのが「放散痛」と呼ばれる現象です。痛みが胸だけでなく、左肩、左腕の内側、首、顎、歯、あるいは背中にまで広がるように感じられます。胸以外の場所が痛むため、心臓の病気だと気づきにくいこともあるので注意が必要です。また、痛みが「持続する時間」も重要な手がかりです。狭心症の場合、痛みは通常、数分から長くても十五分程度で治まります。階段を上るなど、体に負荷がかかった時に出現し、休むと軽快するのが典型的です。一方、心筋梗塞の場合は、この痛みが三十分以上、時には数時間にわたって持続します。安静にしていても痛みは治まらず、冷や汗、吐き気、呼吸困難、意識が遠のくような感覚を伴うことが多く、これは極めて危険な状態です。これらの「締め付けられるような圧迫感」「左肩や腕への放散痛」「冷や汗や息苦しさを伴う持続的な痛み」というサインが一つでも当てはまる場合は、絶対に我慢したり、様子を見たりしてはいけません。すぐに救急車を呼ぶか、循環器内科を受診してください。