それは、平日の深夜のことでした。ソファでテレビを見てくつろいでいた時、突然、胸の真ん中に、これまで経験したことのないような強い圧迫感が現れたのです。まるで、象に胸を踏みつけられているような、息が詰まるような感覚。痛みは、じわじわと左の肩から腕の内側へと広がっていきました。同時に、額からは冷や汗が噴き出し、吐き気も催してきました。「これは、ただ事ではない」。テレビで見た心筋梗塞の症状が、頭の中を駆け巡りました。私は、震える手でスマートフォンを掴み、救急車を呼ぶべきか一瞬迷った末、深夜でも自家用車で駆け込める救急外来のある総合病院へと向かうことにしました。病院に到着し、受付で「胸がすごく痛くて、苦しいです」と伝えると、看護師さんの表情が変わり、すぐに車椅子に乗せられ、処置室へと運ばれました。そこからは、まさにドラマのような光景でした。すぐに心電図の電極が胸に貼られ、血圧計が腕に巻かれ、指には酸素飽和度を測るモニターが取り付けられました。医師が駆けつけ、「いつからですか?どんな痛みですか?」と矢継ぎ早に質問しながら、私の胸に聴診器を当てます。採血も行われ、血液中の心筋のダメージを示す数値を調べる緊急検査に出されました。幸い、心電図にも、血液検査の速報値にも、心筋梗塞を強く疑うような異常は見つかりませんでした。胸部レントゲンでも肺に異常はなく、最終的に医師から告げられた診断は、「非定型胸痛。おそらく、逆流性食道炎か、肋間神経痛の強いものでしょう」というものでした。原因がはっきりし、命に関わる病気ではなかったことに心から安堵しましたが、同時に、あの時の恐怖と痛みは、今でも鮮明に覚えています。この体験を通して私が学んだのは、胸の痛みに関しては、「考えすぎ」「大げさ」ということはない、ということです。万が一、本当に心筋梗塞であったなら、あの時、私が様子を見て朝まで我慢していたら、どうなっていたかわかりません。結果的に何もなかったとしても、専門家によって「危険はない」と診断してもらうこと。その安心感を得るためだけでも、躊躇なく医療機関を頼ることの重要性を、身をもって知った夜でした。