ばね指は、一般的には手の使いすぎや女性ホルモンの影響で発症することが多い病気ですが、特定の基礎疾患を持つ人、特に「糖尿病」や「人工透析を受けている腎不全」の患者さんにも、非常に高い頻度で発症することが知られています。これらの病気を持つ人々のばね指は、一般的なものよりも治りにくく、手術が必要になるケースも多いのが特徴です。では、なぜ糖尿病や透析患者さんは、ばね指になりやすいのでしょうか。その背景には、これらの病気が引き起こす、全身の組織の変化が関係しています。「糖尿病」の場合、長期間にわたって高血糖の状態が続くと、体中のタンパク質が糖と結びついて変性する「糖化」という現象が起こります。これは、血管や神経だけでなく、腱や腱鞘といった結合組織にも影響を及ぼします。糖化した腱や腱鞘は、柔軟性を失って硬くなり、分厚くなってしまいます。その結果、腱が腱鞘の中をスムーズに通過できなくなり、摩擦が起きて炎症(腱鞘炎)を引き起こし、ばね指が発症しやすくなるのです。また、糖尿病による末梢神経障害や血行不良も、組織の修復能力を低下させ、炎症を長引かせる一因となります。「人工透析」を受けている患者さんの場合も、同様のメカニズムが考えられています。長期間の透析によって、体内に「アミロイド」という異常なタンパク質が蓄積し、様々な組織に沈着することがあります。このアミロイドが、指の腱や腱鞘に沈着すると、組織が肥厚して硬くなり、腱の滑らかな動きを妨げてしまうのです。これは「透析アミロイドーシス」と呼ばれる合併症の一つであり、ばね指だけでなく、複数の指が曲がったまま伸びなくなる手根管症候群なども引き起こします。このように、糖尿病や透析患者さんのばね指は、単なる使いすぎではなく、全身疾患の一つの現れとして捉える必要があります。治療も、ステロイド注射が効きにくい、あるいは感染のリスクから使いにくいといったケースも多く、早期から手術が検討されることも少なくありません。もし、これらの基礎疾患をお持ちで、指の不調を感じた場合は、放置せずに、かかりつけの主治医と、整形外科(手の外科)の専門医の両方に相談することが非常に重要です。