妊娠生活もいよいよ大詰め、出産を間近に控えた妊娠後期に、まさかのヘルパンギーナに感染してしまった。このタイミングでの感染は、妊婦さんにとって、また別の種類の不安をもたらします。陣痛が来た時に、この体調で乗り切れるのだろうか。そして何より、生まれてくる赤ちゃんに影響はないのだろうか。妊娠後期、特に出産直前の感染には、いくつかの注意点があります。まず、出産そのものへの影響です。ヘルパンギーナによる高熱や喉の痛み、倦怠感は、母体の体力を著しく奪います。お産は、フルマラソンに例えられるほどの体力勝負です。万全の体調で臨むのが理想ですが、感染症にかかった状態で陣痛が始まってしまうと、体力が続かずに「微弱陣痛」となり、お産が長引いてしまったり、吸引分娩や緊急帝王切開が必要になったりする可能性が、通常よりも高まることが考えられます。そのため、もし感染してしまったら、出産までに少しでも体力を回復できるよう、安静に努めることが何よりも大切です。次に、赤ちゃんへの感染リスクです。もし、分娩時に母親がウイルスを排出している状態だと、産道を通る際や、生まれた直後の密な接触を通じて、赤ちゃんにウイルスが感染してしまう「産後感染」のリスクがあります。新生児、特に生まれたばかりの赤ちゃんは免疫力が非常に弱いため、ヘルパンギーナに感染すると、稀ではありますが、髄膜炎や心筋炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性もゼロではありません。そのため、出産時に母親がヘルパンギーナに罹患している場合、産院では、分娩時の感染対策をより厳重に行ったり、生まれた後の母子の接触(カンガルーケアなど)を一時的に制限したり、赤ちゃんを新生児室で注意深く観察したり、といった特別な対応が取られることがあります。これは、万が一のリスクから赤ちゃんを守るための最善策です。もし、臨月の時期にヘルパンギーナの症状が出た場合は、陣痛が来ていなくても、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡し、状況を正確に伝えてください。事前に情報を共有しておくことで、産院側も万全の準備を整えることができ、母子共に最も安全なお産を迎えることができるのです。