ヘルパンギーナは、一般的に「子供の夏風邪」として知られ、比較的軽い病気というイメージがあります。しかし、これはあくまで子供の場合の話。免疫を持たない大人が、特に体力が落ちやすく、様々な変化に敏感になっている妊娠中に感染すると、子供とは比べ物にならないほど重く、つらい症状に見舞われることがあります。妊婦さんがヘルパンギーナにかかった場合、まず典型的に現れるのが、突然の「高熱」です。前触れもなく、悪寒と共に体温が急上昇し、三十九度から四十度近い高熱が二日から四日ほど続きます。ただでさえ体力を消耗しやすい妊娠中に、これほどの高熱に耐えるのは非常に過酷です。インフルエンザに似た、全身の関節痛や筋肉痛、強い倦怠感も伴い、起き上がっていることさえ困難になります。しかし、ヘルパンギーナの本当のつらさは、その後に現れる「喉の痛み」にあります。口の奥、特に上顎の軟口蓋や喉の入り口あたりに、複数の小さな水ぶくれ(小水疱)と、それが破れた後の口内炎(アフタ)ができます。この口内炎が、焼けるような、あるいは針で刺されるような激しい痛みを引き起こすのです。食事はもちろんのこと、水分を摂ること、さらには自分の唾液を飲み込むことさえ激痛に変わります。食べ物や飲み物が喉を通るたびに、あまりの痛みに涙が出るほどです。このため、食事が全く摂れなくなり、脱水症状に陥ってしまう危険性が非常に高まります。つわりで食事が思うように摂れていない妊婦さんにとっては、まさに泣きっ面に蜂の状態です。妊娠中は、使用できる薬にも制限があります。強い痛み止めや、口内炎に直接塗るステロイド軟膏なども、自己判断では使えません。高熱と激しい喉の痛み、そして栄養や水分が摂れないという三重苦。これが、妊婦さんがヘルパンギーナにかかった時のリアルな症状です。単なる子供の風邪だと侮らず、もし感染の疑いがある場合は、我慢せずに産婦人科医や内科医に相談し、少しでも症状を和らげるための適切な治療を受けることが、母体の安全を守る上で何よりも重要になります。