胸の痛みを訴えて医療機関を受診する際、女性の場合は、男性とは少し異なる視点が必要になることがあります。ホルモンバランスの変化や、特有の疾患が、胸の痛みの原因となることがあるからです。まず、多くの女性が経験するのが、月経周期に関連した胸の痛みや張りです。これは、月経前に女性ホルモンのバランスが変動することで起こる「月経前症候群(PMS)」の症状の一つであり、乳腺が張ることで痛みとして感じられます。通常は月経が始まると軽快するため、周期性のある痛みであれば、過度に心配する必要はありません。気になる場合は、「婦人科」や「乳腺外科」に相談すると良いでしょう。また、更年期(おおむね四十五歳から五十五歳頃)の女性に起こる胸の痛みも注意が必要です。女性ホルモン(エストロゲン)の減少は、自律神経のバランスを乱し、動悸や息切れ、ほてり(ホットフラッシュ)と共に、胸の圧迫感や痛みを引き起こすことがあります。これは「更年期障害」の症状の一つとして考えられ、「婦人科」が主な相談先となります。しかし、ここで非常に重要なのが、更年期は心血管疾患のリスクが高まる時期でもある、という点です。これまで女性ホルモンによって守られてきた血管のしなやかさが失われ、狭心症や心筋梗塞を発症しやすくなるのです。そのため、更年期世代の女性が経験する胸の痛みは、「どうせ更年期だから」と自己判断せず、一度は必ず「循環器内科」で心臓の精密検査を受けておくことが強く推奨されます。心臓に異常がないことを確認した上で、婦人科でのホルモン補充療法などを検討するのが安全な順序です。さらに、乳房そのものの病気、例えば乳腺症や乳腺炎、あるいは乳がんなども、胸の痛みやしこりの原因となります。胸の表面に近い部分の痛みや、しこりを触れる場合は、「乳腺外科」を受診してください。このように、女性の胸の痛みは、婦人科、循環器内科、乳腺外科など、複数の診療科が関わってきます。まずは、自分の年齢や月経周期、痛みの性質をよく観察し、最も疑わしい科を受診するか、かかりつけの内科医に相談して、適切な専門科へ案内してもらうのが良いでしょう。
女性特有の胸の痛み、何科を受診すべきか