私の右手中指に異変が起きたのは、育児に追われていた三十代の頃でした。最初は、指の付け根になんとなく違和感がある程度。しかし、次第に朝起きると指が固まって伸びなくなり、無理に伸ばそうとすると「カクン!」と音を立てて弾けるようになりました。整形外科で「ばね指」と診断され、最初に試したのは、湿布と安静指導でした。しかし、幼い子供を抱え、安静など保てるはずもありません。症状は悪化する一方で、ついに「ステロイド注射」を打つことになりました。注射の瞬間は痛かったですが、その効果は絶大でした。数日後には、あれほど悩まされていた痛みと引っかかりが完全に消え、私は「これで治った!」と心から喜びました。しかし、その喜びは長くは続きませんでした。半年もすると、また同じ症状が再発。再び注射を打ち、また治る。そして、また再発する。そんなイタチごっこを、私は数年にわたって繰り返していました。三回目の注射を打った時、医師から「これ以上注射を続けるのは、腱によくない。もしまた再発するようなら、次は手術を考えましょう」と告げられました。手術という言葉に、私は強い抵抗感を覚えました。手にメスを入れるのが怖かったのです。何とか手術を避けたい一心で、私はインターネットで調べたストレッチを試したり、整体に通ったりもしました。しかし、一度悪化してしまった私のばね指は、もはやごまかしが効かないレベルにまで進行していました。朝、指が固まって全く動かせず、反対の手で無理やり引き伸ばさなければならない。その時の激痛で、毎朝目が覚める。ペットボトルの蓋も開けられず、日常生活に深刻な支障をきたすようになっていました。もう、限界だ。私はついに、観念して手術を受けることを決意しました。怖くなかったと言えば嘘になります。でも、この終わりのない痛みと不便さから解放されるなら、と腹を括りました。手術は、驚くほどあっけなく終わりました。そして、麻酔が切れた後、恐る恐る指を動かしてみると、あの忌々しい引っかかりが、完全に消えていたのです。長年の苦しみから解放された瞬間でした。もっと早く決断すれば良かった。それが、手術を終えた私の、偽らざる本心でした。
私がばね指の手術を決意するまでの長い道のり